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浮気のとなりで

by ほしゆき

「恋人のスマホの中身は見ちゃいけない」って、義務教育期間に私は習った。

だってうれしい結末が、待ってるわけないから。

やましいことがあろうとなかろうと、他の女性とのやりとりを見て、気持ち良くなるわけがない。本人の口から発せられないこと以外を無断で知ろうとするのって、それなりにリスクもあるし、罰もある。

〈ごめん、今日やっぱり早く上がれなさそう。お祝い明日でもいい?〉

〈そっか…しょうがないね、明日で大丈夫だよ。〉

〈ほんとごめん。明日会えるの楽しみにしてる!♡〉

君の嘘、都合のいいハートマーク、聞き分けのいい私のことをどこか見下している連絡の仕方も

ため息つきながら「会えるの楽しみにしてる」ってLINEのひとつだけで嬉しくなっちゃう、バカみたいな自分自身のことも、ホントは嫌いだよ。

…誕生日なんですけど、私。

彼女の誕生日に、誰に会いに行くのかなぁ。

嘘つかれてることなんて、ずっと前からわかってる。でも問い詰めたり、証拠を見つけようとしないのは、平気そうなフリができるのは、本当は悪い人じゃないんだってわかってるから。

上京したてで右も左も分からない私を、不安な夜を、何度も何度も救ってくれた。

切れかけの歯磨き粉を見て、知らない間に新しいものを買って来ておいてくれていたり、「そんな毛布じゃ寒いから」って家に帰ったら羽毛布団がベッドに置かれてた日もあった。

お母さんなの?ってくらい小さな変化にもすぐに気がついて、先回りして、両手を広げて待っていてくれる。それが偽りの優しさだなんて思ってないよ、愛情じゃないなんて思ってないよ。

「ごめんごめん遅くなって!あと当日に祝えなくって本当ごめん……って、ごめんばっかり言ってごめん。」

一週間ぶりに会った彼。

予約していたレストランの前で25分待っていた私に何度も謝る姿にちょっと安堵する。

普段はピシッと整っているスーツも、ネクタイは曲がっているしシャツもヨレヨレ。走って来てくれたんだなぁ……

「ううん、大丈夫だよ。」

仕事だって言うんだから、しょうがないし、怒ったりしないけど

心の中でくらい好きに言ってもいいなら…

くそくそくそバカやろう!!あほ!バカ!大ウソ野郎!ああもう!!!!!!!

その一言も口に出さないんだから褒め称えてよ!謝ってないで抱きしめてよ!本当のことを話してよ!

って叫んでしまうよ。

「…ひかり?怒ってる?」

うつむいた私を見て心配そうに声を掛けるこの男のことが、好きで、嫌いで、好きで、大嫌い。

「…ごめん、怒ってないけど、今日はちょっと一緒に居たくないかも」

「えっ?でも予約…」

最初に気にするの、店側のことなんだ?

「ごめん、予約してくれたのに、ごめん。」

「え、ちょ…ごめんって。怒った?」

「ううん、そうじゃない。」

昨日会えなかった理由を、問い詰めなかったのはね、なにも聞かなかったのはね

無関心だったからじゃないよ。

この関係をずっと、穏やかであるかのように保てていたのは、見せかけだけでもいいからなんかじゃなくて、私が我慢を続けていたからだよ。

別れようって、言えない私が間違ってる?

「ひかり、聞いて」

「…なに?」

「俺は今日一緒に居たい。誕生日を祝いたい。だめ?」

私の右手をギュッと掴む汗ばんだ手が、一生懸命私に会いにきたことを知らせる。

眉をシュンと下げて、申し訳なさそうにお願いするのが、仮面だなんて思いたくないんだよ、疑いたくなんかないんだよ。

大ウソつき。私の3倍くらい傷つけばいいのに、傷つけられてご飯も食べれないくらいになって、たくさん泣いて後悔してくれればいいのに。ずっとずっと、私を裏切ったことを、引きずればいいのに。

社会復帰できないくらい悔やんでよ!って思う一方で、もし本当にそうなってしまったら、ご飯くらいは作りに行ってあげたいとか思ってしまうんだ、もうその時点で、どうせダメなんだ。

「……き、」

「…え?」

───昨日、誰と会ってたの?

今日で私は“あなたの私”をやめて、

“私だけの私”に戻ろうかな。

こんな時でも口に出せないのは、

悪いことされても怒らなかったのは、

ずっと信じていたからじゃん。

「なんでもない。ごめんね、今日は帰る。」

もう連絡は取らないし、もう会わない。

心に決めたけど、ちゃんと言葉にできなかったのは私の弱さだね。

嘘ばっかり重ねてきたあなたの“本当”を、

最後までちゃんと確かめなかったら、

“本当は全部本当だった”って可能性が、

ゼロにはならないかなって

だから最後まで、やっぱりなにも、

言いたくなかったの。

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My Hair is Bad『浮気のとなりで(2019年)』

作詞・作曲:椎木知仁

君の嘘 その服装 その言葉遣いも

どっか見下してる表情も

怒り通り越し 涙目に浮かべたり

逆逆逆ギレも 慣れました

都合のいいだけの♡に

はぁ となりながら嬉しいよー

でも 黙々とどこの誰に返信しているの…

ほら 目泳がしたままムキにならないでよ

あれもあれも気になるけど

今日も

悪いことされて平気だったのはなんでだろう?

悪いことされて怒らなかったのは 本当は悪い人じゃないもん

「ごめんごめん ばっかりでごめん

ってごめんってまた言っちゃってごめん…」

ってごめんなさい顔のお面していて

起こっちゃったことに

怒っちゃったりしないけど

本当は胸の奥の奥じゃ

くそくそくそくそくそやろー

あほーばかあの大嘘野郎ーあー

これは 無関心 じゃなくて 器の広さ だよ?

でも痛いの痛いのまとめて君に飛んでったとしても

包帯は巻いてあげるよ

今日も

優しくされて許してしまったのはなんでだろう?

優しくされてなあなあにしてしまったのは

だって本当は優しい人なんだって

ちゃんとわかっているからね

間違っているのは果たしてどっちなの?

今日で君の僕をやめて

僕は僕の僕に戻ろうかな

悪いことされて怒らなかったのは

ずっと信じてたからじゃん!

…で、悪い人だったんですか?

浮気のとなりで / 0:54 - 1:04

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