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薬指を奪われた後でも、「一番」のままで嫌になるよ

by ほしゆき

きみの愛情に片手間で応えていたこと、僕は一生後悔しつづけるだろう。

金木犀の香りをはこんでいた秋の風は、いつの間にか消えていて、頬にふれるのは思ったよりも鋭い夜風。ハロウィンが終わった途端に、表参道の木々たちは恒例の光を纏うようになっていた。

「結婚するの。だから、もう会えない」

別れたあの日から、いつかこんな瞬間が訪れてしまうことを、心のどこかでずっと怯えていた。結婚なんて、もっと先の話だろうと、思っていたのは僕ひとりだけだ。

いつのまにか、弟のように可愛がっていた幼馴染のあいつも、ヤンチャしてダメなやつだとレッテルを貼られていたあいつも、永遠の愛を誓う覚悟を持って

「俺の子どもが世界で一番かわいい」なんて、世界で一番、ふつーのことを口癖のように言う。

……なんでわざわざ、結婚の報告を、僕に。

久しぶりに連絡がきた時から、察しはついていた。本音を言えば、待ち合わせ時刻が一生来なければいいと思っていたし、きみの声なんて聞きたくもなかった。僕からほしい言葉はひとつだけだろう。たったその5文字を僕からもらうためだけに、“最後のふたりの時間”はあった。

僕が後悔していることを、きっと、きみは知っている。

そして僕は最後まで、「きみの甘え」を許しつづけよう。

もしもこの先の人生で、他のだれかを愛する日がくるならば、二度と同じ間違いは犯さない。きみの恋人だった時よりもずっと優しく、ふところの深い男でいるし、一日だって恋人として手を抜いたりしない。明日死んでもいいと言えるほど懸命に愛を贈りつづけるし、嘘にだって腹を立てない。

「結婚したい」と言われたら、「まだ早い」なんて言葉を、差し出したりしない。

だけど世界一隣にいてほしいきみには、会うことすらもできないらしい。

「あーーー…」

なんで僕じゃないんだよ。

あまりにも自分勝手な感情だって、自分で一番よくわかっている。

きみの愛情に傷をつけて離したのは僕だ。だから幸せになって欲しかった、それが叶ったんだ。きっと、きみが選んだんだから、それはもう誠実で、堅実で、大事なときにそばにいてくれて、底なしに“いい奴”なんだろう。

おめでとう、心から伝えたよ。嘘じゃない。

嘘じゃないけど

僕はもうきみにとって、1ミリたりとも特別な男ではないのだろうか。

一番に愛した人じゃなくてもいい。時々忘れたっていい。

僕のことを愛したきみが、僕の知らない世界の中心で、誰よりも幸せになってくれたらいい。

心のどこかで、僕のことを、好きなまんまで。

こんな想いを殺せずにいることを、許してくれ。

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