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「ここにいるけど、もういないから、失恋って死別みたいだね」

by ほしゆき

君がわたしをもう「選ばない」と言ったとき

全然しらないひとに見えた

わたしを見るときの彼の瞳は、世界中の誰を見るよりも優しくて、その奥にはいつでも、愛おしさが浮かんでいた。

わたし以外の、誰も知らなかったはずの表情。

別れてから、はじめて顔を合わせた飲み会

皆からしたら、君はいつもどうりの君で、いつもどうりの笑顔なんだと思う。

「ほら、乾杯」

カシスオレンジに浮かぶ憂鬱を、カチンと揺らされて顔を上げる。

ふわりと香ったのは、かつてわたしが独り占めしつづけていたあの匂いだ。

「久しぶりじゃん」

だけど瞳の奥には、

もうなんの温もりも見えなかった。

“ただの友達”に向ける顔

自分には向けられることがないはずだって、思ってた表情。

「……そうだね」

だれですか、あなた。

この空間でひとり、わたしだけが取り残されていた。

───あ、そうなんだ。

別れるって、こういう「わたしの知らない君」と初めましてを繰り返すことなんだ。

変わらない柔軟剤、

変わらない声色、

変わらないえくぼ、

なにも変わらないように見える君は

確実にもう、わたしの恋人じゃなくなっていた。

ぐさり。

静かに小さく、血が滲む。

その痛みを押し殺して、カシスの甘ったるさと一緒に飲み込む。

一緒に行った場所も、教えてもらった曲も、あの待ち合わせ場所も、

行きつけのカフェも、ちょっと焦げた目玉焼きの味も

優しく愛おしいだけだった思い出が、

ひとつずつ刃に変わっていく瞬間を、このさき、

わたしはひとりで耐えなきゃいけないらしい。

それが、「別れる」ということらしい。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

……あーあ、わがまま言わなきゃよかったなぁ。

そしたら今日も、きっとあの目で私を見てくれた。

「…つら」

想い合っていた人の“知らない顔”を知ることが、こんなに怖くなるなんて。

「……っうぅ…」

思い出の数だけ辛いなら、

優しかった分だけ苦しめるなら、

先に教えてほしかったなぁ。

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