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女性が恋人に「しらないこと」を教えるのには理由がある

by ほしゆき

「チョコチップフラペチーノひとつ」。

隣で聞こえたそのセリフに、わたしは「えっ?」と怪訝な顔をした。

なに?と表情で返事をしながら、店員さんからお釣りを受け取った男友達は、何の気なしにその小銭を財布へしまう。

「チョコレート食べれなかったよね?」

彼と会うのは約1年ぶりくらいだったけれど、甘いものが嫌いで、とくにチョコレートは断固として拒否していた記憶に間違いはない。

「食べれないけど、スタバのこれだけは好き」。

いったいどこで、スタバのチョコチップフラペチーノが美味しいことに気付かされたのか。なんてことは聞かなくてもわかる。

「……それ、新しい彼女ができたら気をつけたほうがいいよ(笑)」。

別れた彼女と出会わなければ絶対に知ることのなかった<甘ったるい魅惑>を、彼が味わっているという光景に笑ってしまった。

「えっ」

"甘い物が嫌いな恋人に、『チョコチップフラペチーノ』の選択肢を与えた女性の気持ち"はきっとひとつ。

別れたあとでも残るなにかを、欲しがったのだ。

なんで元カノだってわかったの?と、素っ頓狂な顔をする目の前の男を見れば一目瞭然。

意識的かどうかに関わらず、女性が恋人に「新しいこと」を教えるのには理由がある。と、わたしは思っている。

この味を選んだからといって、彼は元カノを引きずっているわけではないし、彼女自身がそれを望んでいるわけでもきっとない。(たぶん)

ただ、彼が「チョコチップフラペチーノ」をオーダーし続けていることを知ったら、嬉しいと思うのだろう。

このひとの人生に、少しでも長く居座り続けたいという彼女の性は、いまもこうして生きているのだから。

モノと自分とを結びつけて、特別な存在だった事実をだれかの世界に残したい。形容しがたいその感情を、わたしも知っている。

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