LOG IN

カレーうどん食べてたら金で買われそうになった話

by ほしゆき

『熟・姉キャバ』と書かれた店の前に並ぶ、露出度の高い女性達の前を伏し目がちに通り過ぎ、辿り着いたうどん屋。

金曜日の夜、煌びやかな祇園の街へ、カレーうどんを食べるためだけにやって来た。

店内を見ると、出勤前であろうお姉様方とお兄様方しかいない。明らかな場違い。

うどん屋にしては艶っぽすぎる。

1人なのに4人席に通され、タバコの煙にむせそうになりながら、名物のカレーうどんを待つ時間の居心地が悪い。

店員のお兄さんはトップスこそ白い割烹着だけれど、ボトムスは細身のジーンズ。耳にはシルバーのピアス(しかも左だけ)。

………ちゃら……。

隣のテーブルに座っていた、ホステスと思われる女性が机を二本指でトントンと叩き

パッと顔を上げた店員の兄ちゃんに「チェック」。と一言。

うどん屋の会計でチェック!?!?

と心の中で突っ込んでいたら

ドカッ!と向かいの席に突如男性が現れ、心臓と肩がビックーー!!と跳ねる。

……は?ここわたしの席なんですけど……

黒髪オールバック、細身、スーツ、軽めの髭

例えるなら、ドラマ『モンテ・クリスト伯』のディーンフジオカ(もっと目が鋭くて威圧感ある)

え、相席?他にも席あるのに?

「熱燗」

その男性はオーダーを聞きに来た兄ちゃんに目も向けず、一言呟く。こっわ……。

明らかにこちらの世界で稼いでらっしゃる風貌と威圧感。ほんとにうどん屋なのここ?たすけて。

「どこの店?」

「…………や、水商売してないです」

と控えめに答えたところで、カレーうどん登場。

極限まで空腹を耐え、やっとご飯にありつけたのに目の前の知らん男性により、謎のプレッシャーの中で食べなくてはいけない不条理に少々腹立たしさを感じながら割り箸を割る。

ひと口目が熱すぎて涙目。

……ねぇ!!気がすむまでフーフーしたいんだけど!!!なんで目の前にいんのよ!!!誰だよ!!!!怖いよ!!!!

と思いながら、控えめにうどんを食べる。こんな状況でもカレーうどんは美味しい。帰りたい。

「うどん好きか?」

ずっと顔を上げないようにして食べてた私に、熱燗を飲むディーンフジオカが話しかけてくる。

「……はい」

 

目が笑ってない。というか鋭すぎて闇を感じる。なんなのヤクザなのかな……

「いくらほしい?」

たぶん、すごい、間抜け面してたと思う。

いくらってなに?

業界用語?なんの話?どういうこと?

……チェック!!!チェックしまーす!ピアスのお兄さん、もうこのうどん要らないから助けて〜〜!!!!!!

熱々のうどん食べてるのに冷や汗。

ひとまず、聞こえなかったふりして俯いたままひたすら麺を追う。味とか一ミリも感じない。

「怖がりすぎだろ(笑)」

と頭上から降って来た声に顔を上げると、ディーンフジオカが私のうどんの横に名刺らしきものを置き、ピアスの兄ちゃんにお金を渡すと席を立った。

一言も喋らない私に、「俺の前でうどん食うなら雇ってやる」と言う。

……いくらほしいって

お金払うから俺の前でうどん食えってこと?

ピザ担当、牛丼担当とかもいるってこと?

わたし、うどん担当任命?

だれか解説して。

どうやらこの世界には、人の前でご飯を食べるという仕事で稼いでいる人がいるらしかった。

私のカレーうどんはすでに会計済みだった。

うどん担当として働く気はないけど、980円チャラになった夜。どうなってんだ、祇園の世界は。

OTHER SNAPS