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君の隣で、何度願っても

by ほしゆき

クリスマスなんて、大嫌いだ。

そう思いながら、彼の好きなガトーショコラの膨らみ具合を確認する。

テーブルの上には、こんがり焼けたローストチキンにパイシチュー。寒いなか、バゲットを買うためだけに少し離れたパン屋さんにもわざわざ行ったし、このケーキを作るためにちょっと高めなチョコレートも取り寄せた。

12月23日。

クリスマスなんて大嫌いだ、と思いながら、朝6時にベッドから出て部屋を掃除して少し飾りつけして、料理の準備をして現在19時半。平日より働いてるんですけど?って。

材料のチョコレートだけでホールケーキ買えちゃう値段になったガトーショコラは、無事に焦げることなく焼きあがった。

ほっ……と一息ついたと同時に、玄関の扉がガチャリと開く。

「ごめん!遅くなって」

バタバタと慌ただしくリビングに入ってきた彼のマフラーは、雪のカケラでキラキラ光って、なにこれクリスマスマジック?いつもより格好良く見える。…って、バカだな私。

「おお〜!すげぇご馳走、俺の好きなものばっかり!」そう言って、鼻を赤くしたままくしゃっと笑う顔を見ると、少し涙が出そうだった。

なんでそんなに可愛いの?好き。めっちゃ好きなんだけど。

「…雪降ってたの?」

濡れた髪をタオルで拭いてあげて、あったかい紅茶を彼に手渡す。

「あ、うん。さっき降り始めてさ。多分積もらないと思うけど。ねぇ食べていい?もう食べていい?」

「ちょっと待ってー!今ピラフ取り分けるから」

フォークを片手にウズウズする姿を見て、子どもみたいって笑ったらほっぺをつままれた。

仕返しも子どもみたい。

……いつかさ、私と彼の子どもがお誕生日席に座って、「ママ僕のぶんも〜」なんて。そんな会話ができたらいいのに。

とか考えてしまうあたり、私も浮かれてるな。恥ずかしい。

「あ〜〜〜!お腹いっぱい。作るの大変だったでしょ?……ありがとね、ほんと。」

「どういたしまして」

ガトーショコラまで一通り食べて、ワインも2人で一本空けて、「もう食べれない」と幸せそうに笑いながら彼は私のベットへダイブした。

「片付けは後でいいから、こっちおいで」

シンクにたまったお皿に手をつけようとした私のことを、彼はベッドから手招きして呼ぶ。腕枕の体制で待ってくれている姿が愛おしくて、勝手に頬は緩んでしまうし、早くぎゅってしてほしくてこの短い距離さえ小走りしてしまう。

……こうやって、彼の胸に飛び込む瞬間だけは、なんの曇りもなく、幸せだーー!!って心の中で叫んでいられる。この一瞬だけは。

「…ちょっと寝る?」

「うん、まだ終電まで時間あるし。」

そう言って手際よく、彼はiPhoneのアラームをセットする。

…もっとワイン飲ませたら、朝までいてくれたかな、なんて思ってしまう自分が嫌だ。

「今年もありがとね」

暗くなった部屋の中で、彼のキスが降り注ぐ。はたから見れば私たちはただの幸せなカップルで、クリスマスがくるのを待ち望んでいたように見えるだろう。そうだよ、幸せだよ。

雪の降る夜に寒いねって体を寄せ合って、今年ももう終わっちゃうねなんて思い出話をして、仕事より朝早く起きて一日中料理してたって全然平気。好きな人が喜んでくれるなら疲れなんて感じない。

こんなふうに隣で安心しきった寝顔を見つめられる私は、幸せ者だ…………そう思えば思うほど、苦しくて涙が出た。

この先どんなに一緒にいても、私と12月24日と25日を過ごしてくれる未来は来ない。永遠に来ない。

12月23日の夜、彼が終電を逃すことを願ってもう4年目。「今日は泊まろうかな」って言葉を待っても、聞けたことは一度もない。今日もそうして、終わってしまう。

……もう、しんどい。

最初で最後でもいいから、朝が来るまで一緒にいてほしい。今夜だけは。

いけないことだとわかってて、彼の携帯に手を伸ばす。そして静かに、終電前にセットされたアラームを解除した。彼の寝顔を最初に見る、クリスマスイブが欲しかった。

「───ん……」

暗闇のなか、ふと目が覚めてiPhoneで時間を確認する。カーテンの外はまだ暗い、AM4:00。

「…………」

彼の姿はすでになくて、はじめからいなかったかのようにシーツも冷たい。

……アラーム解除したのに、起きちゃったのかな。冷酷なほど律儀に、彼は今日も帰るべき家族のもとへ行ってしまった。

優しいパパでいたいなら、私のことなんて振ればいいのに。

もし寝過ごして朝を迎えたとしても、始発で帰れるように、私はAM5:00にアラームをセットしていた。我ながら、こんな気の使い方をして煮え切らない自分に呆れる。

わかってはいたけど、今年も願いは叶わず。

もう気がすむまで寝てしまおう。そうしてクリスマスなんて早く終わればいい。アラームを解除するために画面を開くと、なぜかそこに、緑のマークはひとつも付いていなかった。

「……なんで…」

───知ってたんだね、今夜はそばにいてよって、私のわがまま。

始発まででいいからって、知ってて行ってしまったんだね。

ロクでもないな。優しい顔して、平気でいつも捨てていくんだから。

「……泣くな、ばか」

わかってる。はじめからわかってる。わかってたから大丈夫。

ああもう、だから、クリスマスなんて大嫌いなんだよ。

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