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「馬鹿だ」と言われる恋愛を、いつのまにか忘れてしまうのかもしれない。

by ほしゆき

『大人になってから難しくなること』のひとつに、勝算のない恋愛が入ると思う。

いつの間にか、この人は自分を好きになってくれるかも

この人となら付き合えるかも

確率の高い人に、好意の矢印を向けるようになる気がしている。

ハイリスクでノーリターンな、自分の心だけみっともないほど丸裸にさせられるような恋愛は、大人になるにつれて、うまく避けるスキルを身に付けてしまうのかもしれない。

好きだって気持ちだけで、全く見込みのない0から恋愛をはじめるのは、思った以上に度胸がいるものじゃない?

そんな話をすると

「お前の言っていることは分からない。」

親友が、煎餅をかじりながら首をかしげた。

この人は、告白したものの、あっさりバッサリ振られて尚且つ恋人がいるっぽい相手のことを、当然のようにまだ好きだと、頑張るんだと笑う。

「馬鹿だねぇ」

もっと優しくて、もっと頭が良くて、思いやりがあって、美しいひとがこの世にはきっとゴロゴロいることを、彼は知っている。

「馬鹿ってなんだよ、おい。」

ムッとする顔には髭が生えていて、隣のチョコパイを避けて手にした煎餅を、美味しいとバリバリ食べる。

私の猫が癒しだと言って、スリスリする頬のハリも、ここ数年で衰えたような26の男だ。

アラサーが私に、上手な恋愛の仕方を教えて欲しいなんて言う。

初彼女に振られた中学生か!と突っ込みたくなるけれど、残念なことにお互い様だから、私はもう一度、馬鹿だねと笑う。

かつてこの人に

「本当に好きな人への想いには蓋をしてるくせに、テストの100点探すみたいに他の恋愛するのやめたら?正義主義みたいな顔してるけど、恋愛にそんな答えないから」。

と言われたことがある。

なんて容赦のない言葉を吐くのだ、恐ろしいほどにグサグサと刺さった。

『好き』にとことん忠実な人の前では、何が本当に好きか、を誤魔化すことが出来ない。見透かされてしまう。

気付いたら落ちていたような恋愛には、確率を考えさせてもらう暇なんて与えてもらえない。

その人に恋人がいようと、自分に全く興味がなかろうと、好きになってしまうのだ。初めから負け戦だ。

その人の前では上手く格好つけられないどころか、挙動不振。空回り。帰宅してから勝手に落ち込む。でも相手は1ミリも自分のことなんて気にしていない。

報われる報われないに関わらず、好きだと思ってしまうのだから仕方ない。

それだけの、どうしようもない想いに振り回されて、苦悩して、一喜一憂する。

「お前も同じだろ」と渡された煎餅に笑いながら、わたしはチョコパイを頬張った。

まだ、煎餅よりもチョコレートが好きだ。

「タラレバの最終回もさ、結局恋心の衝動に逆らえずに終わったよね。」

「いくつになったって好きな気持ちには逆らえないんだよ結局。」

「……年相応の恋愛ってなんだろうね」

「さぁ」

最近私の周りには、ひたむきすぎて「馬鹿だ」と言われるほど、恋に振り回される友人が増えた。

昨晩かかってきた女友達の電話に出たら、聞こえたのは「別れたほうが楽なのに、それでも好きなんだ……」と、涙まじりの声。

もっと優しいひとが居るだろうに、と思う。

けれどそんな彼女の電話の内容は

彼氏の悪口よりも、好きなところを話している割合の方が圧倒的に多いのだ。試しに批判してみたら、すかさず「でも、」と口にする。

別れた方が楽だと、もっと素敵な人がいるとわかっているのに。

泣くほど苦しい想いをこの先もするのに。

手の施しようのない恋煩いに右往左往する不器用な恋愛の方が、いつの間にか珍しくなっていくのかもしれない。

けれど、どんな恋愛であれ、『好きなものに愚直であるパワー』というのは凛としていて美しい。

彼らから「なに、傷付くのびびってんの?」とか「好きなくせに認めないの?」とか、ズバズバ心を刺されたりするものだから、一緒にいるとこっちまで心丸裸パワーが流れ込んできてしまう。

大人の容姿をしているくせに、初めて恋を覚えたような、ひたむきな想いに突っ走れるのは素敵なものだ。

片想いに一喜一憂した報告LINEが、中高生の頃のようにせわしなく届くたび

誰かをたまらなく好きでいる気持ちを、忘れたくないなと思う。

どうしようもない恋愛に、振り回される大人もきっと悪くない。

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